経験問題回答例 その4 (掲載日
1997.7.29.) 我が社の、林技師長(!;一応対外的にはそういうことになっています)が1992年に地質部門で合格したときの原稿です。彼は、建設省直轄の亀の瀬地すべりを長い間担当していましたが、この回答例で使っている現場は、六甲山の裏を走る高速道路(現在も一部建設中)の例です。
大きな現場でないと経験問題にならない、と信じて疑わない方のためにも参考になると思います。大きな現場の方がむしろ文章を整えるのが難しいものです。
(
1)技術課題高速道路建設に伴う堆積性軟岩の切土による地すべり発生の予知と対策
(
2)業務概要業務個所周辺は新第三紀の堆積性軟岩が分布し、第四紀の地殻変動を受け、対象となる地層の変形、せん断などが顕著にみられる地域である。
この様な地域に計画された高速道路切土法面で、施工中、或いは施工後に地すべりが相次いで発生した。このため、本業務では、切土によって発生する地すべりを事前に把握した。また、そのすべり面となる位置を特定して、そのせん断強度を強度低下という観点から求め、対策を行うための必要抑止力を算出し、対策工の工程と規模を決定した。
(
3)私が果した技術的役割私は、地質学的観点を中心に切土によって発生する初生地すべりの把握を行い、併せて、土質工学的手法を取り入れて、逆算法では決定しにくい、切土後新たに発生する地すべりの対策に必要な抑止力の算定方法を提案した。
(
4)業務の技術的成果
1.地すべり発生のメカニズムと懸念地の抽出
本地域のような、単層の厚さが、数mの堆積軟岩地域は、構造運動を受けると、各単層の変形特性(ダクテイリイ−)の違いにより、その差の大きなところ、つまり層面に歪が集中し、やがて、破壊に至り、鏡肌を形成しやすい(右図)。
この様な潜在的すべり面とも言える層面付近の鏡肌が、流れ盤となって切土法面に出現した場合、過去の土工では、地すべり発生の大きな要因となった。従って第四紀構造運動によって断層・とう曲等により変動を受けている地域で、計画切土法面に対して流れ盤構造を呈する第三紀堆積軟岩分布地点を地すべり災害要因の高い切土区間として選定した。
2.調査
調査は、まず文献調査と中心線沿いの既存概略調査結果をとりまとめ、路線の概略設計と照合し、地すべり危険ヶ所を抽出した。
次に、地表地質調査を行い、危険ヶ所の基準的な地質構成、地質構造、地層の変形状況、風化度等を把握し、詳細調査のための計画を立案した。
詳細調査は、φ
86oのオ−ルコアボ−リングを基本とした(コア径を通常よりも大きくし、地質観察を重視し、コアの力学試験への転用を容易にした)。また、ビニ−ル付ダブルコアチュ−ブを用い、特にコアの乱れの防止と採取率の向上を計り、地層の傾斜や、鏡肌を含む弱面の把握を容易にした。ボ−リング調査地点は、地質構造が把握できるように配置するため、法面計画個所のみでなく、用地買収範囲外でも、地すべりの延長となるような位置であれば、実施するように努めた。
調査結果は、断面図と切土後の法面形状の入った平面図にとりまとめ、特にコア観察により潜在すべり面と認められる不連続な鏡肌を有する弱面(亜炭層、凝灰岩、泥岩の層理面等)がどの様な形状で法面に露出するのかを予測した。そして、この結果を基に切土後潜在すべりを予測した。
3.安定解析
通常の地すべり対策の場合は、地すべりはすでに発生しているため、逆算法を用いて地すべりの安定度を評価することができる。しかし、本業務のような初生すべり型のケ−スは、特に初期安定率の設定が困難であることが多く、その設定方法によって切土後の安定度や対策方法が大きく左右されてしまう。また、仮に切土前の安全率をFs=
1.05〜1.10に設定して、切土による安全率の低下分だけ対策を行うと言う考え方もできるが、実際のすべり面のせん断強度特性(残留強度への低下状況等)が反映されず、規模の大きな法面などは、検討結果が実際と大きな隔たりを示す可能性も考えられる。従って今回は、潜在すべり面が特定できると言うメリットを生かして、せん断強度特性をボ−リングコアを用いた緩速繰返し一面せん断試験結果から把握し、地すべりの安定計算に用いた。
強度試験に用いた試料は、凝灰岩と亜炭層の境界に生じた鏡肌を含む粘土であり、せん断速度は、
2.88o /day、せん断距離は45oとした。また、垂直荷重は土被り圧を考慮して設定した。
安定解析に用いたせん断強度は、右図の水平度位−せん断強度曲線に示したτ
min強度を用いた。この強度を採用した理由は、以上から、せん断距離を強度の一つのパラメ−タと考えτ
minを用いて切土後の安定を検討し、必要抑止力を算出(F.s≧1.2にするために120 t/m)、対策工の設計(この場合抗工)を行った。また、安定計算では、切土前の安定度のチェック(F
.s≒ 1.3)や、過去に発生した同様規模の切土による地すべりの逆算法によるC−Tanφ図との比較を行い、すべり面強度の妥当性をチェックした。
(
5)現在の技術水準からみた反省と改善案本業務では、切土による初期発生型地すべりの対策工の規模を決定するための安定解析に地質条件を考慮して、地すべり面となる部分のせん断強度値を用いた。この方法は逆算法の仮定をしなくて済み、対策の規模決定においてより現実的な結果を得やすい。
しかし、せん断強度τ
minが、実際のすべり時の値をどの程度反映しているのか、今後検証していく必要があるものと考えられる。その為には、施工中・後のモニタリングや、それを基にした再解析、類似地すべりの事例の再解析が必要であり、特に、地すべり対策業務を終了した後でも、解析・設計のメンテナンスとでも呼ぶべき業務を行っていくことが重要であると考えている。また、本解析では、解析条件が極めて限定されるため、今後この方法の摘要限界とさらに他の条件への摘要の可能性を検討し、一般化に努めて行きたいと考えている。