[1.基本的なはなし] 目次へもどる
[1.1.いつ避難するか?避難させるか?]
伸縮計など地すべりの動きを把握することができる場合には,「一般に2o/時間の変位に達すれば滑落まで速ければ2時間程度の余裕しかない(3次クリープの場合)ので避難,交通止めをする事が望ましい」。「4o/時間になれば滑落直前と考えて地域内に一切立ち入りを禁止すべきである」(中村浩之氏,昭和62年防災セミナーより)。伸縮計には,この管理基準で警報機を設置することが多い。ただし,なぜかこの方法はノイズが多く,動いていないようなときにブザーがよく鳴ります。観測機器が上等になるまで,この問題は解決されないかもしれません。
定常ひずみ(2次クリープ)速度からは,下表のような崩壊予測となります(伸縮計の長さを10mとした場合の崩壊時刻)。(『地すべり管理基準値の実態調査』(1993,土木研究所資料より)
| 定常ひずみ速度 | 崩壊時刻 ( )内は信頼幅 | 危険度 | |||
| 時 間 | 日 | レベル | |||
| 1o/日 | 2,786
(716〜10,837) |
116.1
(29.8〜451.5) |
注 意 | ||
| 2o/日 | 1,476
(380〜5,743) |
61.5
(15.8〜239.3) |
|||
| 5o/日 | 638
(164〜2,481) |
26.6
(6.8〜103.5) |
|||
| 10o/日 | 338
(87〜1,315) |
14.1
(3.6〜54.8) |
警 戒 | ||
| 20o/日 | 179
(46〜697) |
7.5
(1.9〜29.0) |
|||
| 1o/時 | 151.6
(39.0〜589.7) |
6.3
(1.6〜24.6) |
|||
| 2o/時 | 80.3
(20.6〜312.5) |
3.3
(0.9〜13.0) |
避 難 | ||
| 4o/時 | 42.6
(10.9〜165.6) |
1.8
(0.5〜6.9) |
|||
| 10o/時 | 18.4
(4.7〜71.6) |
0.8
(0.2〜3.0) |
立入禁止 | ||
[2.実務的な意味での地すべりの規模とは?] 目次へもどる
[2.1.対策可能な規模の地すべりとは?]
対策可能な地すべりブロック規模は,通常必要抑止力(安定化させるのに必要な力)が幅1m当たり150t程度です。もちろん金に糸目をつけなければそれよりも大きな地すべりの対策をすることもできますが,現実的ではありません。また,地すべりの大きさは連続的ですが,対策工の規模を目安とすると,下表のように分類することもできます。
| ランク | 面積
A(ha) |
長さ
L(m) |
幅
W(m) |
深さ
D(m) |
必要抑止力
Pr(t/m) |
記 事 | ||
| T | 0.10ha以下 | 35m | 30m | 3m | 7 t/m | 規模の小さい地 | ||
| U | 0.25ha以下 | 60m | 45m | 5m | 20 t/m | すべり | ||
| V | 0.50ha以下 | 80m | 60m | 6.5m | 35 t/m | |||
| W | 0.75ha以下 | 95m | 75m | 8m | 50 t/m | |||
| X | 1.00ha以下 | 110m | 90m | 10m | 80 t/m | |||
| Y | 2.00ha以下 | 150m | 120m | 14m | 150 t/m | |||
| Z | 2.00ha以上 | 規模の大きい地
すべり |
[2.3.どこまで小さい規模を相手にするか?]
その昔は,ごく小規模な農地地すべりは,木杭を打ち込んで止めていました。その時代には,深さ1mの地すべりでも深刻な問題だったかもしれません。今は,このような小規模なものは,小型のバックホーで消し去ることができますのであまり問題にしなくなっています。このように,個人のレベルで対策ができるものは,現在では”地すべり”の範疇からははずれていると思います。
[3.調査/対策の考え方] 目次へもどる
[3.1.何のため,どの程度の調査をするか?]
「地すべり調査によって地すべりの性状を明らかにする」という表現をよく用いますが,実務的には,この「地すべり調査」というのは「地表地質踏査」のことです。その他の非常に費用がかかる,
ボーリング調査や計器観測は,「対策工事の規模を定量的に評価するため」
に存在していると言っても過言ではないと思います。従って,地表地質踏査で推定できる対策工規模の誤差が対策工事費に重大な影響を及ぼす場合,それを解消し得るだけの調査をする,ということが基本となります。従って「掘ってみないと何ともいえません」という言葉の裏には,重大な危険が含まれていることがあります。
ボーリング等の調査数量は,実務上は,対策工事の見積もり誤差を少なくすることを目的にします。下表に,数量の大まかな目安を提示します。
| 地すべりの規模 | T | U | V | W | X | Y | Z | ||
| 長さ
幅 深さ 面積 |
〜35m
〜30m 〜3m 0.1ha以下 |
〜60m
〜45m 〜5m 0.25ha以下 |
〜80m
〜60m 〜6.5m 0.5ha以下 |
〜95m
〜75m 〜8m 0.75ha以下 |
〜110m
〜90m 〜10m 1ha以下 |
〜150m
〜120m 〜14m 2ha以下 |
150m〜
120m〜 14m〜 2ha以上 |
||
| ボーリング箇所数(孔) | 0〜1 | 2〜3 | 2〜3 | 2〜3 | 2〜3 | 3〜4 | 4 〜 | ||
| ボーリング深度(m/孔) | 10 | 10 | 15 | 15 | 15 | 20 | 20〜 | ||
| 標準貫入試験(回/孔) | 5 | 5 | 10 | 10 | 10 | 15 | 15〜 | ||
| 孔内載荷試験(回/孔) | 0〜1 | 0〜1 | 0〜1 | 0〜1 | 0〜1 | 0〜1 | 0〜1 | ||
| 簡易揚水試験(回/孔) | 0〜2 | 0〜2 | 0〜3 | 0〜3 | 0〜4 | 0〜5 | 0〜 | ||
| 地下水検層(孔) | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0〜 | ||
| 孔内傾斜計またはパイプ
歪計設置(孔) |
0 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1〜2 | 2〜 | ||
| ストレーナ加工保孔管及び
自記水位計設置 |
0〜1 | 2〜3 | 2〜3 | 2〜3 | 2〜3 | 3〜4 | 3〜 |
[3.3.厳密な解析は意味があるのか?]
安定解析一つとっても,簡便法,ビショップ法,ヤンブ法などいろいろありますが,大胆に言えば実務上は「簡便法のみで十分」です。地すべりの研究はいろいろとありますが,未だに「地すべりが動く瞬間」をデータ的に見た人はいません。間隙水圧が本当のところどのように作用しているのかを知る人もいないと言ってもよいと思います。このように,解析上の有効桁数が2桁確保することが困難な状況にあって,細かな解析方法の違いを議論することには意味がありません。これは,対策工の設計についても言えることですs。
[3.4.地表地質踏査は必要なのか?]
必要です。報告書を見ると,高価な調査の結果の記載が大半だと思いますが,その調査では地表地質踏査で定性的にわかること以上のことは,普通わかりません。定量化させるのみです。その定量化にしても,地表踏査のみから推定された対策工事規模と30%以上の差が生じることはまずありません。従って,この誤差を小さくすることに意味がある場合にのみ詳細な調査が必要となる,という方が正確です。
[3.5.抑止工は永久構造物なのか?]
私たちの孫の世代には,地すべりの抑止工のメンテナンスが重要な問題となっていることがあり得ます。これを回避するためには,できるだけ抑制工を組み合わせて対策することが望ましいと思います。
[3.6.水抜きボーリング工は恒久対策といえるか?]
水抜きボーリング工は,メンテナンス経費がかかる対策工です。5年に1回程度は,目詰まりの洗浄のために,ウォータージェットによる洗浄経費を見込んでおくことが必要です。
[4.地すべりの動きはどう解析するか?] 目次へもどる
[4.1.どこが地すべり地なのか?]
地すべり地の中は,鬱蒼としてなにがなんだかわからないことが多いと思います。「普通でない地形のところが地すべり地」です。これを理解するためには,数多くの「普通の地形」を見ることが必要となります。地すべり地と普通の地形との違いは,個別の要素ではなく「パターン認識」で区別します。パターン認識では,「普通でない地形」が入力値として入ると「なんかが変だ」という出力が得られます。その「変」なところの平面的な分布をおさえると,「地すべり地」があぶり出されてきます。難しいようですが,実は昔から「山師」は,この方法を用いていました。
[4.2.計器観測はどの程度必要なのか?]
計器観測の必要性は,そのデータをどう使うか,で変わります。
安定解析をするためのすべり面を確定するだけならば,計器設置直後に1回と,数ヶ月後の1回(+用心のためもう1回程度)の観測で十分です。また,最高水位だけが知りたいのならば,発泡スチロールに細いワイヤーを通したものを観測孔内に入れておけば十分です。
現況安全率を20%程度改善させる対策工を計画するためには,上記の数量の観測があれば十分なのですが,実際には1週間に1度の観測を数ヶ月行うことが慣例となっています。
この数量は,安定解析をするためだけのためであれば明らかに「過大」ですが,地すべりの挙動を定量的に把握するためには「過小」だと思います。現在のように,パソコンが高機能になったのですから,高速A/D変換器をつけて,「地すべりの瞬間」をとらえるような観測はできないものでしょうか。
[4.3.データのとりまとめはどこまで必要なのか?]
「動いていて危険な地すべり」と「銀座地すべり」とでは,自ずとデータ解析の必要性が違います。原則論で言えば,ある特定の期間に採取されたデータは,一般化したデータに変換しないと意味がありません。「今年は雨が多かったから」とか「空梅雨だったから」,「以前の観測データと単純に比較することはできません」というのであれば,高価な計器観測をやる意味がありません。しかし,現実はこのような言葉が当然のように飛び交っていることを否定できません。問題の一つには,「危険な地すべり」と「銀座地すべり」の解析費用が同じことがあるかもしれません。
[4.4.対策工の効果はどのように評価するのか?]
「対策工」は自然に対する働きかけであり,「完璧に効果があった」かまたは「効果がなかった」の両極端に分かれるはずがありません。その中間的性質を持つのが当たり前です。しかし,前述のデータ解析で,地すべりの挙動が一般化された関係にまで導かれていないとしたら,中間的な評価をすることは不可能です。
最高水位で現況を安定解析し,平常時の水位で対策工を効果判定しているケースをよく見かけますが,これなどは何の意味もありません。
[4.5.追加対策工をやることはあるのか?]
特に地下水排除工は,その対策量が多くなると,同じ降雨量に対する変位速度が小さくなる傾向を定量的にとらえることができます。この場合,「許容変位速度」以下にするまでにどの程度の追加対策を行えばよいかということは,容易に解析できるはずです。これも観測データのまとめ方次第というところです。
[5.地質屋はいいかげんですか?] 目次へもどる
[5.1.地質屋とは?]
土木屋さんが,「地質屋」と言うときには,概ね大学の地質学教室(に類する教室)を卒業してきた人を指しているようです。これを「広義の地質屋」とでも名付けます。これに対して,「狭義の地質屋」は,地質学教室の中で「層序屋」と呼ばれる人のことです。簡単に言えば,山を歩いて地質図を描いている人,のことです。それ以外の「広義の地質屋」には,岩石屋,化石屋,地球物理屋などがいます。
土木屋さんが,「地質屋はいいかげんで,人によって言うことが違う」ということをよく聞きます。しかし,大半は「層序屋」が解決する分野を,それ以外の分野の地質屋に頼んでいることが原因です。「広義の地質屋」は全般的に,まじめで世話好きなため,自分の不得意とするところでもなんとか答えようとする傾向があります。この善良さが,結果的に地質屋の評価を下げているとしたら悲しいことです。
地質屋サイドからは,土木屋さんを一括して呼んだりはしていません。橋梁屋,土質屋,トンネル屋などというように,その専門分野で呼んでいます。土木屋さんも,地質屋を,層序屋,岩石屋などと呼んでみてください。「層序屋」の常識では,同じ地域の地質図は,だれが書いてもほぼ同じになる,はずなのです。
[5.2.地質屋のようで地質屋でない人とは?]
地質屋の世界では,「山を歩く人」を「地質屋」と呼んでいます。最低延2ヶ月以上を1人で山にはいっていた人を,「山を歩ける人」と呼ぶと思います。山にサンプル採取や計測のみに出かけていた人は,「山を歩ける人」ではありません。化石屋さんや地球物理屋さんは自分のことを「地質屋」とは言いませんから,「地質屋のようで地質屋でない人」は,「岩石屋」さんであることが多いと思います。ただし,「山を歩ける岩石屋」もいますし「山を歩けない層序屋」もいます。それではどうやって見分けるのかということですが,依頼主の側にたてば簡単に見分けることができます。すなわち,依頼主の知識のレベルを判断して,易しい言葉でわかりやすい説明ができる人が「プロに値する地質屋」であり,専門用語を並べ立てて怪しげな世界へ引き込もうとするのが「未熟な”地質に携わる人”」です。
[5.3.地質屋によって地質図が違う?]
地質図を描くルールはきわめて単純です。「地層累重の法則」や「斉一観」など,「当たり前やないか!」と怒鳴りたくなるほど単純です。被覆層の取り扱いなどに違いが出るのは仕方がないと思います。また,きわめて学術性の高い問題で,解釈の違いによって地質図が違う,ということはあり得ます。しかし,土木地質的な業務で違いが出ることは問題です。この原因は,「広義の地質屋」をすべて地質図が描ける人と誤解しているために生じているものと思います。
[5.4.地質屋と地質技術者の違いは?]
「地質屋」はアマチュアなのかプロなのかはっきりしていませんが,地質技術者は明らかにプロです。プロであるということは,依頼主がお金を払ってまでも解決したい問題があり,その答えを出すのが仕事ということです。地質コンサルタント業界は,伝統的にプロであることを認識させることを怠ってきています。地質屋には,「プロ≒手抜きをする」という変な価値観が存在しています。依頼主の要求に対して手を抜くことが許されないのがプロだと思うのですが...
[5.5.ついでに設計屋と設計技術者の違いは?]
設計屋は,図面屋と計算屋に大分類できます。各種基準をチェックし,構造計算/数量等に間違いのないことが要求されます。設計屋さんは間違いなくプロです。設計技術者≒設計コンサルタントは,各種基準では解決できない問題に対しての回答を出すプロフェッショナルです。非常に希少価値の高い技術者です。
[このページの目的] 目次へもどる
毎年各都道府県に大きな斜面災害が2件の頻度で発生したとすると,自治体の土木技術者は,一人当たり在職中に何件の斜面災害を担当するでしょうか?おそらく多くて数件だと思います。
このように生涯のなかで希でしかも緊急性を要する仕事に対して,日頃から知識をつけ準備することはほとんど不可能といって良いでしょう。このためどうしてもどこかのコンサルタントへ「青田刈りの仕事として」依頼せざるを得なくなります。いままでは,こうして災害対応の仕事の受注先が自動的に決まる仕組みになっていました。
入札の公正化や,企業間の技術的な競争の必要性が求められる今日に,このような旧態依然とした方法をとっていたのでは,地質/建設コンサルタントの業界はますます若い人にとって魅力がなくなるとともに,国際的な競争力も失ってしまうと危惧しています。
いくらそのことを声高に言ったところで,こちらの業界サイドからなにもアクションを起こさなければ将来は開けないと思います。「まずは隗より始めよ」ということでこのページを作りました。
なお,このページは予告無く変更/更新されます。
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